「パディントン」戦時中のロンドンから疎開した子どもの姿が映画のヒント
今年最初の1本は来週末封切り予定の「パディントン」。ダッフルコートと赤い帽子の子ぐまキャラが人気の、英国児童文学の映画化作品だ。
あれ? “シネ本”ってドキュメンタリーやマイナー映画専門じゃないの? と笑われそうだが、英仏合作の実写版「パディントン」はかわいいだけのキャラものではない。
大都会ロンドンの駅頭で中流家族に拾われた迷子の子ぐまが、ドタバタ騒動を巻き起こすという喜劇仕立ては型通りだが、迷子のパディントンは首から荷札を下げた小荷物もどきの姿。実は原作者は、戦時中ロンドンから疎開した子どもらが首に荷札を下げ、トランクかたわらにぽつんと引き取り手を待っていた姿を思い出して物語を発想したというエピソードで有名なのだ。
石井光太著「浮浪児1945-」(新潮社 1500円+税)は終戦直後にあふれ出た上野の戦災孤児たちの体験と記憶を追ったノンフィクション。空襲で親を失い、駅や地下道に群れる孤児たち。生き延びるためにゴミをあさり、ウソをつき、弱い仲間から食べ物を奪う。先に物故した野坂昭如にも戦災孤児を描いた中短編が多数あることは周知の通り。そんな焼け跡闇市派の忘れられかけた記憶を70年代生まれの作家が引き継いだのが本書だが、映画「パディントン」もごくわずかながら、そんな歴史のかけらをいまにとどめているのである。〈生井英考〉