稀代の名著ついに復活 男のドラマは「革命とニヒリズム」

公開日: 更新日:

「鞍馬天狗のおじさんは」七つ森書館/嵐寛寿郎+竹中労著

 今回は「復刊案内」である。徳間文庫に続いて、ちくま文庫でも絶版になってしまったこの掛け値なしの「稀代の名著」が入手できなくなるのが堪えられなくて、私は復刊に力を貸した。そして、解説も書いた。

 嵐寛寿郎ことアラカンの演じた鞍馬天狗を記憶している読者も少なくなったかもしれないが、晩年には「網走番外地」の鬼寅親分で評判になった。かつては耳が悪くて「むっつり右門」だったというアラカンが反逆の血を全開させての語りを竹中が鮮やかに掬い取ったこの絶妙な一代記を私はいつも他人にすすめる別格ベスト3の一冊としている。

 アラカンは戦時中に一座を組んで前線を巡業して歩いた。その時、関東軍のエライさんが毎晩のように芸者を抱いて遊んでいるのを見て、戦争は完全に負けだと思ったという。

「戦争はこんなものか、“王道楽土”やらゆうてエライさんは毎晩極楽、春画を眺めて長じゅばん着たのとオメコして、下っ端の兵隊は雪の進軍、氷の地獄ですわ」

「軍隊平等やおへん。エライさんは楽しんで、兵隊苦労ばっかりや。こら話がよっぽど違うと思うた。教育ないさかい、むつかしい理クツはわかりまへん。せやけど戦争ゆうたら、馬鹿も利口も生命は一つでっしゃろ。鉄砲玉にも平等に当たらな、不公平ゆうものやおまへんか。ところが、司令官やらゆうお方はちゃんと安全地帯におって酒くろうてオメコして、ほてからに滅私奉公が聞いてあきれる。ちっともおのれを虚しうしてまへん。これゆうたらさしさわるけど、カツドウヤのエライさんと同じことでおます(笑)」

 官房長官の菅義偉が9日の記者会見で、プロ野球のジャイアンツの賭博問題について、再発防止を含めてしっかり対応するよう求めたと知って「よく言うよ」と呆れた。大臣室で汚いカネを受け取った甘利明に「調査」の結果を早く発表させることこそ求められているのではないか。

「ワテは前から維新ものがやりたかった。アラカン何をゆうやらと嗤われるかも知らんが、詮ずるところ男のドラマは革命や。それとまあ、ニヒリズムでんな。たれよりも勇敢に闘うて、たれよりも無残に裏切られていく。そんな人間を演じてみたいと願うておりましたんや」

 男のドラマが「革命とニヒリズム」にあることで共鳴したアラカンと竹中の呼吸がピッタリ合った傑作中の傑作である。★★★(選者・佐高信)


【連載】週末オススメ本ミシュラン

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」