「庖丁ざむらい十時半睡事件帖」白石一郎著
福岡黒田藩の要職を歴任してきた十時は、隠居して半睡と名乗る。半分眠って暮らすというシャレだ。しかし、2年前に再出仕を命じられ、総目付に返り咲いた。
ある日、半睡は息子・弥七郎の江戸土産の鐔(つば)を愛用の刀(差し料)に用いようと、刀剣商の古仙堂に相談を持ち掛ける。尾州信家の鐔は古仙堂も目を見張る逸品だが、絵柄が狛犬(こまいぬ)なので差し料には向かないという。犬侍を連想させるからだ。
古仙堂は、弥七郎が8両で買った鐔を30両で買い取りたいと言い出す。半睡は断るが、古仙堂から話を聞きつけた御使番の久世や御小姓頭の馬杉らが次々と鐔を譲って欲しいと訪ねてくる。(「鴨と蛤は漁師がとる」)
藩士の持ち込む相談事を半睡が裁く時代連作集。(講談社 780円+税)