「千駄木の漱石」森まゆみ著
文豪・夏目漱石は、明治36年春からの4年足らずを千駄木で暮らした。その間、英語教師として教壇に立ちながら、「吾輩は猫である」「坊っちゃん」など数々の名作を執筆した。当時の漱石の暮らしぶりを紹介しながら、千駄木の歴史をつづる地域史エッセー。
英国留学から帰国し、東京帝国大学の英語講師の内定を受けた漱石は、勤務先に近い千駄木の借家に居を定める。その家は、10年前まで森鴎外が弟たちと暮らした家だった。漱石は千駄木の家を評し「偏鄙にて何の風情もこれなく」と友人への手紙に書き残している。
書簡や作品などを読み解きながら、そうした当時の千駄木の様子や借家事情をはじめ、食いしん坊だった漱石の食生活など、文豪の素顔に迫る。(筑摩書房 800円+税)