若者たちに芽生えつつある「台湾人意識」とは何か?
「台湾とは何か」野嶋剛著
同じ「民進党」ながらも日本と違って大躍進したのが台湾。新しく登場した蔡英文総統のもとで台湾はどうなるか――。
経済的には中国に依存しながらも政治的・歴史的には中国と対峙する。そんな微妙な立場で外交を続け、また国内におけるアイデンティティーを模索してきた台湾。親中路線の国民党・馬英九政権が終わり、新たに民進党・蔡英文政権が圧勝したことで日中台関係も大きく変わるのは間違いない。
元朝日新聞記者の著者は馬総統派と王金平立法院長派に分裂した国民党の内紛が大敗の主因とする一方、台湾人自身のなかに芽生えつつある「台湾人意識」も無視できないという。
民主化以後の時代に生まれ育った20代30代の若者たちは、明らかに旧世代とは違った「台湾人アイデンティティー」を持っているのだ。彼らは同じアジアにある近代国家として日本に親しみを抱いている。ときどき話題になる日本のサブカルチャー好きの「哈日族(ハーリージュー)」も本書の説明を念頭にするとすっきり理解できる。新聞社時代、台湾への社内留学を希望したところ上層部から圧力がかかったという。とはいえ、この10年ほどの朝日の台湾報道は質量ともすばらしいと評価している。(筑摩書房 860円+税)
「民主化後の台湾」河原昌一郎著
対中関係をめぐって揺れ動いてきた台湾外交。李登輝総統時代の「弾性外交と実務外交」、陳水扁時代の「民主外交」、馬英九政権の「活路外交」、そして今回の蔡英文政権の誕生までを丹念に追う。その目的はあくまで「これからの台湾」の行く手を見定めること。
特に台湾の場合、国家観についての国民的合意が形成されてこなかったぶんだけ、その時々の指導者の方針が大きく左右するからだ。
農水省の官僚として対中台外交に関わってきた著者は、軍事的にも経済的にも巨大な「中国のパワー」を前に「民主台湾」のナショナリズムがいかなる振る舞いを見せるか、冷静に観察するための基礎知識を提供している。なお現在の著者は拓殖大で教壇に立つ実務系研究者だ。(彩流社 1800円+税)
「蔡英文が台湾を変える」黄文雄著
台湾出身の右派評論家として保守論壇でおなじみの著者。これまでの親中派・馬英九政権批判とは打って変わって本書では蔡英文新政権に対する手放しの賛辞が続く。日本にとっても台湾こそが中国そして北朝鮮の脅威に対する生命線になるとの持論も展開される。
民進党は4年前の総選挙で敗北したが、その後熟慮を経て今回の復活劇となった。その間の思いを蔡氏自身が書いた「蔡英文 新時代の台湾へ」(白水社)も先に翻訳されているから、併せて読むと実像が得られるだろう。(海竜社 1500円+税)