「老人ホームで生まれた〈とつとつダンス〉」砂連尾理著
気鋭のダンサーである著者は、ベルリンで障害者との共同公演を行ったことをきっかけに、ダンスの持つ力とその意義を再認識。帰国後は京都府にある特別養護老人ホーム「グレイスヴィルまいづる」で、ワークショップを行うことになる。本書にはその活動と、「とつとつダンス」と名付けられた、体で対話するダンスの事例が紹介されている。
例えば、「別れのダンス」では、2人1組になって握手をし、そのままお互いが徐々に体勢を後ろに倒していく。体の重みで手が離れる最後の瞬間まで、指先でもつながろうとするのがポイントだ。
他にも、自分や相手の脈拍を測り、そのリズムにあわせて体を動かす「脈拍を踊る」、ティッシュペーパーなどを上から落とし、その落ちていく動きに合わせて体を動かす「落下ダンス」など、とつとつダンスは一見するとダンスとは言えないような動きばかりだ。
しかし、シンプルで自然な動きだからこそ、言葉を超えた感覚が刺激される。本書では、認知症の高齢者に思わぬ動きや表情が生まれてくる様子もつづられている。
認知症の症状に対する、新たなアプローチのヒントになりそうだ。(晶文社 1700円+税)