「星をつける女」原宏一著
「食の格付け」を仕事にするヒロイン、牧村紗英が主人公の連作長編である。「食の格付け」とはいっても、フランスの有名なガイドブックとは関係がない。彼女の顧客は飲食ビジネスに投資したり買収したりする投資家たちだ。メニューや味はもちろんのこと、サービスや経営倫理にいたるまで調べあげて評価する。つまり、グルメ評論家と市場調査員と信用調査員を兼ねた仕事といっていい。
たとえば、フレンチレストランで味が落ちたのはなぜか。有名ラーメンチェーンから常連客が離れ始めているのはなぜか。「牧村紗英イート&リサーチ」を率いるヒロインはそういう依頼が入ると途端に動きだす。時には、紗英の大学の先輩で小劇団を主宰している真山幸太郎と組み、上司と部下、不倫カップルなどを演じて調査に取り組むのだ。白浜温泉の旅館を調査するときには、紗英の娘を連れ、真山幸太郎と家族連れを装って宿泊する。ちなみに紗英はシングルマザーだ。
原宏一には、「ヤッさん」「握る男」「佳代のキッチン」「ヴルスト!ヴルスト!ヴルスト!」など、「食」を題材にした小説が多く、「食の小説なら原宏一」といわれるほど、その完成度にも定評がある。そういう原宏一の作品群に、また新たなシリーズが誕生したわけだ。どこにも「シリーズ第1作」とは書いていないけれど、智也に七海など、スタッフが徐々に増えていく本書の展開は、その道筋を示している。(KADOKAWA 1500円+税)