日本の原風景77景に心癒される
「日本のふるさと百景」日本絶景倶楽部編著
「兎追いし かの山 小鮒釣りし かの川 夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷」――東日本大震災の折にも、ことあるごとに耳にした童謡「ふるさと」。
たとえ生まれ育ちは都会だったとしても、日本人の誰もが、この歌を聞けば、その脳裏に山や川、そして海辺の風景など、それぞれがイメージするふるさとの風景が思い浮かぶに違いない。
それらの風景は、成長とともに自然と記憶に刻みこまれた日本の原風景ともいえるものだ。
本書は、平成が四半世紀も過ぎた今でも日本の各地に確かに残る、そんな古き良き日本の原風景を集めた写真集。
遠くには夕焼けに染まった山、そして目の前にはゆったりと大きな川が流れ、その上の鉄橋を蒸気機関車がレールの音を響かせながら走り抜ける新潟県阿賀町で撮影された一景や、昆虫採集の網を持った子供が駆け抜けるのどかな山村の風景(広島県世羅町)など、その典型といえるかもしれない。
ほかにも、田植えを待つ田んぼの水鏡に花筏をつくる満開の山桜の並木(三重県津市)や、川の土手一面に咲く菜の花に包まれたお地蔵様(埼玉県川島町)、稲刈りの終わった田んぼで天日干しされる稲穂(奈良県明日香村)など。
その場所には行ったこともないのに、なぜか懐かしささえ感じられる光景ばかり。とともに、まだまだこんなにも美しい場所が日本に残っていることに安堵する。
収穫を終え、冬を迎えた水田を見守る富士山(山梨県忍野村)、水揚げされたばかりのイカが天日干しされる港の風景(兵庫県香美町)など、いつまでも大切にしたい、そしていつかこの目で見てみたい風景ばかり77景を収録。疲れた心のコリをほぐしてくれる癒やし本だ。(洋泉社 1600円+税)