「3月のライオン」少年の才に目をかける棋士と嫉妬する子どもたち
人気マンガの実写映画化で、前編はすでに3月末に封切り。その続きが今週末封切りの「3月のライオン」後編である。
両親を亡くした少年が父の友人のプロ棋士に引き取られ、その家の子らと育つ。少年の才に目をかける棋士と、それに嫉妬する子どもたち。新たに巡り合った下町の一家との心温まる交わり。少々出来過ぎた設定に「将棋マンガというより少女マンガ」の声もあるが、実写版の本作では凝った撮影術で昔風の「ビルドゥングスロマン」、すなわち少年の成長物語を現代に蘇らせた。
もう20代の主演・神木隆之介が15、16歳の少年の体つきで細い背中を見せるあたりも、役者陣の気合の表れだろう。
面白いのは物語が終始、少年の主観世界を語っていながら、画作りの面で説明的な客観ショットを多用し、“少女が見た少年”の理想像に観衆を誘引するところ。下町一家との場面でも、絵に描いたような庶民の食卓に手作りの料理があふれ、本来ならドロドロの愛憎劇を舌触り滑らかなスイーツならぬ「甘酸っぱい16歳(スイート・シックスティーン)」味のメロドラマに仕立て上げてあるのだ。
こういう映像の話法がとても日本的なものに感じられるのは、認知言語学でいう「共同主観性」が説明描写の端々からにじみ出しているからだろう。この概念は哲学者・廣松渉の「世界の共同主観的存在構造」で提唱された。西洋的な「主観―客観」論に対し、人間の主観は人と人の間(間主観的)に成り立つとする。あいにく絶版なので同著者の「哲学入門一歩前」(講談社 720円+税)を挙げておきたい。〈生井英考〉