「安倍でもわかる保守思想入門」適菜収氏
2016年5月16日の国会答弁で、「私は立法府の長」と発言した安倍首相。言うまでもなく、立法府の長は形式的には衆議院と参議院の議長であり、総理大臣は行政府の長だ。
我が国ではとんでもないとんちんかんが現職の首相であることに間違いはない。
「自身のウェブサイトでは“闘う保守”などと自称していますが、安倍は保守の対極に位置する人物であり、政治思想的に見れば程度の低い“極左グローバリスト”に過ぎません。保守でない首相が保守を名乗り、特定のイデオロギーに基づいて伝統の破壊にいそしんでいるのが日本の現状なのです」
本書では、保守とは何かという基本について、哲学や政治思想などから、“サルでもわかるように”、もとい“安倍でもわかるように”解説。安倍首相の言動を振り返りながら、そのデタラメぶりも浮き彫りにしていく。
保守主義の本質は、人間の理性に懐疑的であることだと著者は言う。近代の理念を盲信せず、常識と伝統を擁護し、節度ある自由や平等を尊重する。人間の理性を過信しないので、権力の集中に警戒してきちんと監視も行う。
これらは、権力の集中が地獄を生み出してきた歴史に学んでいるためなのだ。
「安倍は11年2月8日のテレビ番組で、“衆院と参院を一緒にして1院制にすべきだ”などと発言しています。権力の集中を唱えるのは、左翼全体主義者の典型的な特徴です。本来ならば安倍のようなものを批判するのが保守の役割ですが、自称保守のメディアも機能を果たしていないのだからどうしようもない」
安倍首相は日本語が苦手なようで、「云々」を「でんでん」、「画一的」を「がいちてき」などと読んだことが話題になった。本当に読めないのか、官僚に渡された原稿を何も考えずに読んでいるからかは不明だが、これは揚げ足を取って笑っていられる事態ではない。
著者は「言葉の混乱は政治に利用される」と警鐘を鳴らす。
「移民は外国人材、戦争に巻き込まれることは積極的平和主義、不平等条約のTPPは国家百年の計です。また、16年7月に南スーダンで発生した戦闘に関して、稲田防衛大臣は『事実行為としての殺傷行為はあったが、憲法9条上の問題になる言葉は使うべきではないことから、武力衝突という言葉を使っている』と発言しています。早い話が、国が憲法違反をやっていると公言したわけで、都合の悪い現実を歪める全体主義の言葉のごまかしは、安倍政権下で最終段階を迎えていると言っても過言ではありません」
本書には綿々と安倍政権に対する痛烈な批判が続くが、安倍首相個人の批判や揶揄が目的ではない、むしろ、安倍政権に何の疑問も抱かず、思考停止を起こした多くの日本人にとって、本書が気づきのヒントとなることを願っていると著者は言う。
「“安倍首相は大局を見ている”“野党の安倍批判はすべてブーメラン”と思っている人たちは少なくないでしょう。しかし、早く認識を改めなければ、日本はとんでもないことになる。こんなことを言ったら出版社や書店から怒られるかもしれないが、まずは立ち読みでもいいので本書を手に取ってほしい。少し知る努力をすれば、安倍のデタラメは明らかになります。末期状態に近づいている日本の現状に、ひとりでも多く気づいてほしいと思っています」(KKベストセラーズ1300円+税)
▽てきな おさむ 1975年、山梨県生まれ。作家。哲学者。早稲田大学文学部で西洋文学を学びニーチェを専攻。ニーチェの「アンチ・クリスト」を現代語訳にした「キリスト教は邪教です!」他、「ニーチェの警鐘 日本を蝕む『B層』の害毒」「ミシマの警告 保守を偽装するB層の害毒」「安倍でもわかる政治思想入門」など著書多数。