白石家では不景気の波が来たとたんコロッケが続いた
「マンガ 自営業の老後」上田惣子著/文響社 1180円+税
何という恐ろしい本が出たのだ。アナコンダや殺人アリよりも怖い自営業者の老後。震える手でページをめくれば、著者は女性イラストレーターで、若い時に比べて、50歳を過ぎた今は、収入が3分の1に激減したという。
私もフリーランスの端くれだが、現実から目をそむけ、楽しいことだけ考えて生きてきた。昼からビール片手に仕事しても怒る人もなく、満員列車も嫌な上司もいない。収入は少なくとも、この気楽な人生を気に入っていたのだが、どうやら現実は甘くないようだ。
「もう死んだほうがまし」と悲嘆している彼女の元に、「老後の本」の依頼がくる。お金がないというから、どんなボロ家に住んでいるのかと思ったら、完済済みの一軒家で夫とふたり暮らし、しっかり民間の保険に加入しているというではないか。
すべてが凍える氷河期で、ピサの斜塔のように傾いた出版界しか知らない私からしたら、イケイケドンドンだったバベルの塔時代に稼げたのはうらやましいが、むしろそのギャップが不安なのだろう。
本書では、経済の素人にも分かりやすく、さまざまな「お金の達人」が登場して指南してくれる。90歳までの生涯収支、実は無敵の年金、節税できる共済や納得できる保険の入り方など、目からウロコの知識が次々と飛び出す。おもしろいのは「7・5・3周期」という建設界の言葉。不景気7年、普通5年、儲かるのは15年のうち3年だけだ。儲からない期間は、じっと耐えて次の景気を待つ。
そういえば、父が職人だった白石家でも、景気が良くなると食卓に刺し身やカニが躍るが、不景気の波が来たとたんコロッケが続く。子供心に「景気の波が来た! 今年のクリスマスプレゼントはでかいぞ」と感じとっていたのだが、あれ? 白石家は冬にじっと耐えるのではなく景気の波に乗りまくっていたのだと気がつく。
景気の波を知り、現実を把握しておくだけでも不安は解消する。自営業者だけではなく、サラリーマンも買っておいて損はない本だ。