「うなぎ女子」加藤元著
物語の舞台は、うなぎ屋「まつむら」。権藤佑市という売れない俳優が通うこの店に、うなぎに対してそれぞれの思いを持つ女が訪れる。本書は、そんな佑市と縁を持つ5人の女たちの5つのストーリーがつづられている。
第1章「肝焼き」に登場するのは、佑市と20年前に知り合い、同棲を続けてきた笑子という女。君のおかげでうなぎを食べる喜びを知ったという佑市の言葉にほだされ、周囲の反対を押し切って一緒にいたものの、ある疑惑から別れを決意する。
しかし、2章以降に登場する大学教授と見合いをする女、ベストセラー作家になることを夢見る女、入院中の病院で佑市と知り合った女、ある時まで佑市の妹として生きてきた女たちのストーリーを読み進めると、佑市という人物の意外な全体像が見えてくる。読み終えた後に、もう一度ページを遡って読み返したくなる仕掛けがうまい。
うなぎ屋の焦げたような甘い匂いで想起された、女たちの切ない思い出に引き込まれる。(光文社 1500円+税)