Tシャツをめぐるリアルストーリー集
「捨てられないTシャツ」都築響一著
誰もが一枚や二枚は持っている愛着のこもったTシャツ。タンスに眠るそんな捨てられないTシャツをめぐる物語を集めたリアルストーリー集。
ファッションは、ふつう価格やブランドで誰が見ても「ヨシ」とされるものがリスペクトされるが、Tシャツだけは「『だれも見たことないもの』や、ヨシなのかダメなのか判断に迷うほうがリスペクトされたりする」と編者はいう。「ヨシなのかダメなのか判断に迷う」、そうしたTシャツに染みついた、「着用する本人の確固たる意志や、根拠のない自信や、何よりも個人的な記憶」を持ち主が語る。
バーを経営する42歳の女性は、高校時代にハマっていたパンクのライブで思いがけず手に入れたTシャツへの思いを追想。ラモーンズのライブ中にエキサイトし過ぎて出血騒ぎを起こし病院へ。治療後に再び会場に戻ると、アンコールで出てきたジョーイ・ラモーンがそのパンクぶりを称えて、着ていたTシャツを脱いでプレゼントしてくれたのだとか。返礼に血だらけのTシャツを渡したら受け取ってくれたという。
女性写真家の一枚は、バイトの退職祝いに、仲間が本人のイメージを手書きしてプレゼントしてくれたペラペラのTシャツ。ある出版社勤務の男性は、古着屋を探し回ってやっと入手したミッキーマウスのTシャツを「ここぞ」という時に着用していたが、会社の同僚のおばちゃんから、同じものを持っていると話しかけられショックを受けたという。
ほかに荒れた高校時代に唯一、何も言わずに見守ってくれた祖母の顔をデザインした33歳の女性デザイナーの特注Tシャツなど。
有名無名の70人が匿名で自らの人生と、その人生に寄り添ってくれたTシャツの思い出を語るハートフルな一冊。(筑摩書房 2000円+税)