「地獄の犬たち」深町秋生著
凄まじい小説だ。帯に「先鋭化した暴力団に潜入した警官」とあるので、潜入ものであることは最初から明らかにされている。となると、その正体がいつ露見するのか、そういうサスペンスが中心になっていくのかと思うところだが、そんなことはどうでもよくなってくるほど、エグい場面が頻出する。
なにしろ、潜入捜査官兼高昭吾が弟分を連れて沖縄へ飛び、ターゲットを惨殺するところから始まる小説なのである。さすがに兼高昭吾は一人になってから、激しく嘔吐するが、慣れというのは恐ろしく、そのうちに兼高昭吾は嘔吐もしなくなる。つまり、正体が露見するのかしないのか、ということは本書の場合、たいした問題ではない。もっと違うことが問題になるということだが、ネタばらしになるのでこれ以上の紹介は控えたい。
物語の表層で語られるのは暴力団内部の激しい抗争で、その殺戮と拷問と陵辱が凄まじく、思わず目を背けたくなる。だが、兼高昭吾は何のために潜入したのかという目的がなかなか知らされないので、その真実を知りたくてページを繰ると、やがて明らかになり呆然。ホントかよ。
深町秋生は、「果てしなき渇き」で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞して2005年にデビューした作家なので、その登場からもう12年になる。これまでにもさまざまな作品を書いてきたが、本書は深町秋生が新たなステージに向かう記念碑的な作品だ。(KADOKAWA 1600円+税)