「有楽斎の戦」天野純希著
織田源五郎長益にとって、兄の信長は常に恐怖の対象だった。織田家重臣の明智光秀が謀反を起こしたとき、ともに二条御所に移った長益に、信長の嫡男、信忠は、自分は切腹するが、「叔父上は、好きになされるがよい」と言い、厨に抜け道があると教えた。
そこに信忠の弟で、かつて武田勝頼の元に人質として送られていた信房が深手を負って倒れ込んできた。もはや自害する力もない信房に長益がとどめを刺そうとすると、信房は信長ではなく慕っていた勝頼の名を呼んで死んだ。それを聞いたとき、多くの人の生を踏みにじった信長の巻き添えで死んでなどやるものかという思いが湧く。信長の弟らの視点で描く時代小説短編集。
(講談社 1600円+税)