「空からのぞいた桃太郎」影山徹著
絵本である。かなり異色の絵本である。あの有名な桃太郎のお話を変えてしまったわけではない。話はそのままだ。しかし、絵が異色。書名にあるように、すべて俯瞰で(つまり上からの視点で)描いているのだ。空からのぞいた桃太郎、とはそういう意味である。
これがどういう効果を生むか。おじいさんとおばあさんの住む家が小奇麗であること、畑が広く、しかもきちんと手入れされていること――つまり、かなり広い土地を所有していて、働き者であることが伝わってくる。アップでは分からないことも、ロングで上から描くことで、そういうことが明らかになる。彼らが何も言わずに桃太郎を育てたことには、そういう経済的余裕があったことが推察されるのである。そういう「発見」が随所にあって楽しい。
本に挟まれている8ページの小冊子を読むと、桃太郎にはおかしな点があることを昔から多くの人に指摘されてきたという。たとえば、桃太郎は宝物を持ち帰るが、その宝物はその後どうしたか。「元の持ち主に返した」と説明するバージョンもあるようだが、「自分たちのものにした」というバージョンも数多くあるようで、福沢諭吉は「桃太郎は盗人だ」と批判したという。
この絵本は、絵が奇麗で、色づかいも大胆で、さらに構図が新鮮なので、子供が読んでも面白いだろうが、このように大人が読むとこれまで知っていた話がまったく新しい話として蘇ってくる。
(岩崎書店 1500円+税)