「屍人荘の殺人」今村昌弘著
いやあ、楽しい。第27回の鮎川哲也賞受賞作だが、読み始めたらやめられず、一気読みである。困ったのは、その基本設定をここで紹介できないことだ。その基本設定は91ページのところで明らかになる。全体が300ページの小説であるから、最初の3分の1のところだ。まだ3分の2が残っているのなら、紹介してもいいのではないか、との気がしないでもない。しかし、それを明らかにしてしまったら、読書の興がややそがれることは否めない。というのは私、何も知らずに読み始めたので、ここでぶっ飛んだのだ。なんなのこれ? その驚きをみなさんにも共有してもらいたいので、ここはぐっと我慢する。
ヒントをひとつだけ書いておけば、西澤保彦の傑作「七回死んだ男」を想起したということだ。最近、新装版が出たばかりなので、「七回死んだ男」を未読の方はぜひこの初期の傑作をお読みいただきたい。つまり、ある特殊な設定をつくり、その上で犯人捜しをするということだ。
近年の作品なら、白井智之著「東京結合人間」がこのタイプの作品になる。ようするに、奇想と本格ミステリーの見事な融合だ。
さらにもうひとつ、このデビュー作の美点を挙げておくと、人物造形が素晴らしいこと。ラストにヒロインが「敵」のひとりに「彼は、私のワトソンだ」と啖呵を切るシーンには、思わずぞくっとした。
才能豊かな新人の登場に拍手しておきたい。
(東京創元社 1700円+税)