「翔ぶ夢、生きる力俳優・石坂浩二自伝」石坂浩二著
アイドル並みの人気若手俳優として世に現れた石坂浩二が、今や76歳。大河ドラマ「天と地と」、金田一耕助シリーズ、4代目水戸黄門など幅広い役を演じ、「スター千一夜」や「開運!なんでも鑑定団」の司会役も務めた。最近では、倉本聰脚本のテレビドラマ「やすらぎの郷」で、主役の菊村栄を演じ、円熟した役者ぶりを見せた。
昭和16年、東京・銀座の生まれ。芝居好きの祖母に連れられて浅草に通い、芝居や芸事に興味を持ったらしい。中学、高校と慶応の演劇部。アルバイトでラジオの台本を書くなど、演劇人生を踏み出す。菊田一夫、石井ふく子、市川崑などに可愛がられ、活躍の舞台を広げていく。
これが初の自伝だそうだが、座談を聞くような肩の凝らない読み物になっている。「やすらぎの郷」秘話、俳優や監督のエピソード、演劇論や役者論、私生活での出来事もさらりと語っている。
本業以外に、絵画、料理、翻訳などにも才を発揮し、多芸多才な人といわれるが、三度のメシより好きなものはヒコーキで、子どものころに始めたプラモデルづくりに、今も熱中。この自伝の4割は「私のヒコーキ人生」に割かれ、あふれんばかりの飛行機愛が語られている。
うんちくも相当なもので、航空会社による機体塗装の違い、機種ごとの操縦桿の違い、コンコルドの窓からの宇宙的な眺め、コンピューター制御による無人機の可能性にまで言及。飛行機マニアは我が意を得たり、だろう。
やりたいこと、興味のあることにとことんのめり込むのは、仕事も趣味も同じ。石坂浩二に「老後」はなさそうだ。
(廣済堂出版 1500円+税)