「二子玉川物語」吉村喜彦著
月曜の夕方、二子玉川の多摩川のほとりにあるバー「リバーサイド」の開店と同時に常連客の若松が来店する。月曜日は彼が義父から継いだ寿司屋の休業日だった。冷えたモヒートを口に運びながら、若松は母親が遠足の弁当に持たせてくれたかんぴょう巻きについて語りだす。大阪で育った若松だが、母は東京出身だった。当時はそのかんぴょう巻きが貧乏くさくて嫌だったが、大人になって久しぶりに口にするとそのおいしさにびっくりしたという。モヒートのミントの苦味のように、食べ物や飲み物には苦味が大切なのだと気がついたからだ。(「海からの風」)
マスター川原とアシスタントの琉平、そして客たちの人生のドラマを美酒美味とともに描くハートフルストーリー。
(角川春樹事務所 540円+税)