著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「ランチ酒」原田ひ香著

公開日: 更新日:

 武蔵小山から中野坂上まで、さまざまな街のランチを食べ歩く31歳犬森祥子の日々を描く連作長編である。これは、ヒロイン祥子の職業に関係している。彼女は「見守り屋」なのだ。これは、深夜の見守り、付き添いなどを仕事にする職業で、したがって一日の終わりは朝か昼。あとは家に帰って眠るだけだから、ランチは彼女にとってその日最後の食事となる。だから、おいしいものを食べたい。かくて、依頼先の家を出るとその街の食堂やレストランを探すことになるのだ。

 いやはや、本当においしそうだ。特に食欲をそそるのは、「孤独のグルメ」のように食べる人の独白が入るのだが、それが見事だからである。目の前にその料理が並んでいて、匂いと味が行間から立ち上ってくるのはその独白の効果にほかならない。

 さらに強調すべきは、あとは帰宅して寝るだけの祥子が、必ずランチのときに酒を飲むことで、ビール、日本酒、焼酎など、どれもおいしそうなのである。これらの店が実在するならぜひ行きたいと思うような店ばかりで、出てくる料理も酒も、絶品といっていい。立ち上る匂いにもうくらくらである。

 深夜から朝までの「見守り屋」としての仕事もなかなか異色で(こんなことを依頼するのかよ、ということが多い。おお、紹介したいが紙幅がない)、こちらのドラマも読みごたえ十分。しかも祥子の個人的なドラマもあったりするからぜいたくな小説だ。

(祥伝社 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  2. 2

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  3. 3

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  4. 4

    中居正広氏「性暴力認定」でも擁護するファンの倒錯…「アイドル依存」「推し活」の恐怖

  5. 5

    大河ドラマ「べらぼう」の制作現場に密着したNHK「100カメ」の舞台裏

  1. 6

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  2. 7

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  3. 8

    下半身醜聞ラッシュの最中に山下美夢有が「不可解な国内大会欠場」 …周囲ザワつく噂の真偽

  4. 9

    フジテレビ第三者委の調査報告会見で流れガラリ! 中居正広氏は今や「変態でヤバい奴」呼ばわり

  5. 10

    トランプ関税への無策に「本気の姿勢を見せろ!」高市早苗氏が石破政権に“啖呵”を切った裏事情