「台湾人の歌舞伎町」稲葉佳子、青池憲司著
帯に、「らんぶる」も「スカラ座」も「風林会館」も台湾人がつくった、とあるので、思わず手に取ったが、読み始めるとやめられなくなる。
新宿、もうひとつの戦後史、という副題の付いた書である。だから、歌舞伎町にとどまらず、新宿全体の歴史を語る書にもなっている。たとえば、西口マーケットの記述が興味深い。現在の小田急デパートの位置にあった闇市である。昭和24年と昭和33年の、西口マーケットの地図(小さく当時の店名がびっしりと書かれている)が本書に収録されていて、昭和33年にはパチンコ店が多いことが一目瞭然。数えてみると、なんと15軒だ。パチンコ台が二十数台しかない店もあったようだが、100台を揃える店もあったという。
これらのパチンコ店の多くは台湾人が経営していた。昭和30年代に西口マーケットの整理が進んで(その跡地に立った小田急デパートの全館開業は昭和42年だ)、西口マーケットの人々は新宿西口会館や小田急エースに移り、そして中には大通りを1本隔てただけの歌舞伎町に流れ込んでいった人もいる。西口マーケットの整理の時期と、歌舞伎町の躍進の時期が重なっていた、との著者の指摘は興味深い。
昭和32年ごろの西武新宿駅前とか(こんなに寂しかったのか!)、昭和34年の新宿東口の尾津組・龍宮マーケットとか(これが本当に新宿なのか)、収録されているたくさんの写真を見ているだけで飽きない。労作だ。
(紀伊國屋書店 1800円+税)