「CUBA★CUBA」藤田一咲 写真・文
2015年、54年ぶりにアメリカとの国交を回復して世界の注目が集まるキューバの写真集。
1959年の革命で南北米大陸初の社会主義政権となったキューバは、以来「カリブ海に浮かぶ赤い島」と呼ばれ、厳しい経済制裁を受けてきた。ゆえに国内には革命当時の空気がタイムカプセルのように色濃く残っていたが、経済改革が進み、今、急速にその姿を変えつつある。
著者は、タイムカプセルの蓋が開き、濃密な空気が新しい空気によって「薄まり切らないうち」に町やそこに暮らす人々を見ておきたいとキューバに通う。
キューバはかつてスペインの植民地で、植民地貿易の中心として栄えた首都ハバナの旧市街(オールド・ハバナ)には、さまざまな時代・様式のコロニアル建築が立ち並び、独自の景観を作り出している。
そんなパステルカラーに塗られた建物が並ぶ「マルティ通り」を、1950年代製のクラシックなアメリカ車が走る。
以降のページでも何度もお目にかかるこのキューバの名物ともいえるアメ車も、経済制裁で車の輸入が途絶えたため、大切に乗り継がれてきたもので、期せずして同国の貴重な観光資源になった。いまやアメリカでもなかなか目にすることがない古き良き時代の車たちが、歴史ある街並みによく似合う。
1838年に創建されたバロック様式の「アリシア・アロンソ・ハバナ大劇場」や、ビザンチン様式の「カザン聖母正教会」などの壮麗な建築を横目に、ひとたび路地に入ると、パンツ一枚で遊ぶ子供や射的に興じる親子、路上でのチェス対決、女性たちの井戸端会議、大きな魚を肩に担いで歩く男など、市民の何げない日常が繰り広げられている。
キューバを愛し、この地で数々の名作を執筆した作家ヘミングウェーゆかりの場所も数多く残っている。彼が通ったレストランのひとつ「ラ・ボデギータ・デル・メディオ」の店の壁は、ファンのサインと思われる落書きで埋め尽くされ、その前でストリートミュージシャンが演奏する。
キューバの人々の憩いの場である海を望むマレコン通りをはじめ、街のいたるところで住人やミュージシャンが思い思いの楽器を手に曲を奏でる。
そんな人々の暮らしの生活音やキューバ音楽が聞こえてきそうなスナップショットが並ぶ。
街のいたるところに革命の英雄らの肖像画が掲げられる。中でもチェ・ゲバラのそれは内務省のビルの一面に掲げられた巨大な肖像から、部屋の片隅に何げなく置かれたものまで、アメ車と同じようにキューバの日常に同化している。
ハバナの他にも、リゾート地バラデロや、かつての首都でキューバ革命の端緒となった地「サンティアゴ・デ・キューバ」などを巡り、著者は心の琴線に触れた光景をカメラで切り取っていく。
青い空と青い海、そして写真からも伝わってくる人々のやさしさ、おおらかさが、読者をキューバへといざなうに違いない。(光村推古書院 1780円+税)