強制労働と偽装によって作られるトマト缶
パスタにスープにと使い勝手のいいトマト缶。あなたの家の台所にも買い置きがあるかもしれない。しかし、ジャン=バティスト・マレ著の「トマト缶の黒い真実」(田中裕子訳 太田出版 1900円)を読むと、その缶蓋を開けることが恐ろしくなるだろう。
いわゆる“買ってはいけない”系の話だけではなく、農業ビジネスの暗部にも迫っている本書。気鋭のジャーナリストである著者が2年半にわたり世界各地のトマト加工産業を取材したところ、行きついたのは中国だった。
トマトの主要な産地である新疆ウイグル自治区では加工産業が活況を呈しており、年間1000万トン以上生産される濃縮トマトのほとんどが、世界各国のメーカーへと輸出されている。食文化として、中国人はトマト加工品をほとんど食べないためだ。
そして、この地でトマト産業に従事“させられている”のが、反革命犯や政治犯。中国には彼らの思想を改造するために労働をさせる労働改造という制度があり、過酷な条件下で収穫作業などを強いられている。2013年、この制度は廃止が発表されたが、現実にはまだ続いているという。ヨーロッパ経済はいまや中国からの輸入に依存しており、そのせいか中国における強制労働の実態などはメディアがほとんど取り上げないと、フランス人である著者は嘆く。
さらに本書では、3倍濃縮トマト「ブラックインク」の加工工場にも潜入。酸化して真っ黒になったトマトペーストの呼び名で、中国のメーカーではこれにさまざまな“工夫”を凝らし、1缶中69%が添加物というとんでもないトマト缶を作り出しているという。
身近な食材の驚くべき実態。目を背けてはいけない。