「マリア・シャラポワ自伝」マリア・シャラポワ著、金井真弓訳

公開日: 更新日:

テニスに関しては、あなたの小さなお嬢さんはモーツァルトのようなものだ。世界一になる可能性がある」。やせっぽちの4歳の女の子がボールを打つ姿を見たテニス界の巨匠ユーリ・ヤドキンは、女の子の父親にこう言った。そして、それは現実となった。

 マリア・シャラポワの両親はベラルーシの街ゴメリ出身。チェルノブイリ原発事故の後、北のニャガンに逃げて、マリアを産んだ。マリアはソチで育ち、父のテニスをまねて、壁に向かって飽きることなくボールを打った。娘のテニスには特別なものがある。でも、この国にいたら未来はない。父は、娘を世界一のテニスプレーヤーにするというゴールに向かって走り出した。

 崩壊しつつあるソ連邦で、奇跡的にビザを取得、6歳の娘を連れてアメリカに渡った。所持金はわずか700ドル。英語はまったく話せない。空港に迎えにくるはずのテニス関係者は現れず、行き場のない父と娘は、2人で運命を切り開いていく。手ひどい扱いも受けたが、手を差し伸べる人もいた。マリアがボールを打つと、目の前に道ができた。

 貧しいロシア人親子は、テニススクールで学ぶ裕福な子どもたちやテニス・ペアレントにとって目障りで、いじめも受けた。でも、幼いマリアはすでにシンプルで確固たるモチベーションを持っていた。「どんな相手も倒したい」。気難しいコーチの気持ちを掴み、どんな厳しいトレーニングにも耐えた。結果はついてきた。父と2人だけの死に物狂いの闘いは終わり、マリアは脚光を浴びる。

 その後の活躍はご存じの通り。栄光の陰にはつらい日々もあった。恋人との別れ、肩の手術、ドーピング疑惑。それらの全てを乗り越えたマリアが、人生を中締めするかのように、自分をさらけ出した。誤解もトラブルも恐れず、歯に衣着せない語り口。「私のことを知ってほしい」という叫びが聞こえる。

 (文藝春秋 2100円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動