「エマニュエル・マクロン」アンヌ・フルダ著 加藤かおり訳
エマニュエル・マクロンは2017年5月、先輩政治家たちを差し置いて、フランス大統領選に勝利した。39歳という若さ、スマートな容姿、人を魅了する物腰、そして24歳年上の妻。彼は何者? 「突然変異体(ミュータント)」「政界の未確認飛行物体」などと形容されるマクロンは、なかなか捉えられない謎の部分を持った人物のようだ。
「ル・フィガロ」紙のベテラン記者が、マクロン本人をはじめ、両親、妻、友人などにインタビューを重ね、史上最年少大統領の素顔に迫った。
1977年に生まれ、両親ともに医師。幼年時代からずばぬけて優秀で、常に周りから称賛のまなざしを向けられて育った。特に、母方の祖母マネットは、エマニュエルが他の子供と違うことを早くから見抜いていた。知的で文学的素養もある教育者マネットは、孫に厳しく接し、成長の機会を与え、無条件の愛を注いだ。祖母と孫のこの特別な関係は、母親が入り込む余地がないほどだった。
16歳のとき、エマニュエルは運命の女性ブリジットに出会う。彼女はエマニュエルが通う高校の教師で、夫と3人の子供がいた。演劇部の顧問と生徒という関係を超えた2人は、時間をかけて愛を育み、ついには結婚する。それぞれの家族を説得し、世間の偏見と戦い、揺るぎない愛を認めさせたのだ。16歳のエマニュエルが「唯一無二」と感じた愛は本物だった。
天性の人たらしエマニュエルは、銀行家時代も、政治の世界に足を踏み入れてからも、どんどん人脈を広げ、実力者たちを味方につけて、人生の階段を駆け上がっていく。そして大統領にまで上り詰める。「天使のようなほほ笑みを浮かべた大統領候補から、決然としたまなざしで力強く語りかける大統領へ。劇的な変貌を遂げた」と著者は書く。頭がよく人好きのする完璧な青年は、権力を手にして違う顔を見せ始めているという。この先も、政界の未確認飛行物体の動きから目が離せない。(プレジデント社 2000円+税)