猫を知る猫に学ぶ本特集
「『ネコ型』人間の時代 直感こそAIに勝る」太田肇著
全国の推計飼育頭数は猫が犬を上回ったというデータも発表され、今や、空前の猫ブーム。猫愛好家の増加に伴い、猫関連の本も百花繚乱だ。そこで猫という生き物を正しく知るための本、さらには人が猫に学ぶ、自己啓発ならぬ「ネコ啓発本」を紹介しよう。
「『ネコ型』人間の時代 直感こそAIに勝る」(平凡社 800円+税)は、実は秀逸なビジネス書である。人材育成の秘訣が凝縮されていて、今の日本社会や組織の弱点を浮き彫りにし、「イヌ型」より「ネコ型」を提唱する斬新な内容だ。
そもそもイヌ型とは「集団的な行動を好み、飼い主に従順で、決して人を裏切らない」。過去、日本の学校と企業はイヌ型人間の育成に尽力してきたという。その結果、主体的に周囲との関係をつくれず「オレ様社員」や「指示待ち族」を生み出してしまったのだ。素直でいい子な優等生が突如キレるのも、イヌ型育成の弊害ともいえるだろう。
一方、ネコ型とは「気ままで人の言うことを聞かないが、エサは自分でとってきて、自分の排泄の後始末もする」。管理されたり強制されるのを嫌い、対等な関係を好む。逆に、プレッシャーをなくし、個人の自由に任せること。そうすれば主体性と自立が生まれるのだ。
ネコ型育成で、連戦連勝するようになった部活、赤字から復活し業績を上げた企業の実例もある。特に有名なのは青山学院大学駅伝部の原晋監督だ。イヌ型のスパルタ管理をやめ、ネコ型の楽しさ&遊び感覚優先で、人も組織も必ず変わるはずだ。
今後のAI(人工知能)時代に必要な人材は、まさにネコ型。直感と自発性を引き出す人材育成の秘訣も説く。子育てに通ずるものもありそうだ。
最終章の「ネコ型社会のお手本は京都」も一理あり。日本が今取り組むべきは「美しい日本」などの戯言ではなく、ネコ型への転化かもしれない。
「ご長寿猫がくれた、しあわせな日々」ケニア・ドイ著
猫好きが一度はのぞく通信販売のWebサイト「フェリシモ猫部」。動物カメラマンの著者が人気連載をまとめた本書は、15歳以上の猫に限定したエピソード集だ。
猫の15歳は人間で76歳以上、後期高齢者である。28の愛猫家と猫たちに取材し、ご長寿の秘密を探る。猫なで声で猫可愛がりする激甘エピソードではない。猫にとってストレスフリーな環境を模索する、確固たる取材軸がある。
取材先は捨て猫や保護猫の飼い主で多頭飼いも多い。猫の性格を重んじ、エサや寝床、習性に合わせた環境づくりを徹底しているので、飼い主が学ぶべき点も多々ある。
最もご長寿は26歳まで生きたオスのコジャジャ。晩年は、あぶった鶏むね肉や、わら焼きカツオのたたきを好んだとか。
長寿の秘訣はストレスフリーのほか、室内飼い・肥満防止・去勢避妊手術だそう。
(祥伝社 1300円+税)
「猫の精神生活がわかる本」トーマス・マクナミー著、プレシ南日子・安納令奈訳
アメリカ中部のモンタナ州。冬は厳しく、コヨーテなどの野生動物も多い土地だ。ここで生後3カ月の捨て猫と出合った作家が、猫という生き物を全身全霊で理解しようと奮闘。愛猫・オーガスタの心に寄り添うために、論文・書籍など膨大な資料をひもとき、分析する。
猫の精神に関しては俗説も多く、時には金儲け主義に利用されることもあると指摘。特に猫の問題行動やしつけに関しては関心も高く、スピリチュアルな方向へ流れがちだ。アメリカでは猫と話せる「キャット・ウィスパラー」や、猫の行動専門家らが人気を博しているが、著者自身は玉石混交だと警鐘を鳴らす。猫も野生動物であるという基本姿勢を貫いている。
並行して、オーガスタの成長をつづり、こまやかな愛情を注いだ軌跡も描く。最期までみとったエピソードは涙なしに読めない。
(エクスナレッジ 1600円+税)
「猫思考」ナカムラクニオ著
やるべきことを書き出す「TO DOリスト」ではなく「NOT TO DOリスト」、つまり、やらないことを意識するのが「猫思考」だ。ブックカフェ店主の著者が、猫の生態と名著などから学ぶべき人生訓を説く。「群れて淋しさをごまかさニャい」「自分に、嘘をつかニャい」「所有しニャい、所有されニャい」。なるほど。猫っぽさ全開で説教くさくない。
後半は不思議な世界観の小説で構成されている。豪徳寺で遭遇した1000年以上生きる「猫ジイ」に、幸せの法則を学ぶファンタジー小説だ。ネコノミクス、ネコシエーション、ネゴイズムなど全8編。ただのダジャレと侮るなかれ。猫ジイから問われる10の質問は本当に大切なことは何か、気づきを与えてくれそうだ。勝手気ままで自由に見える猫の生きざまが、凝り固まった思考を解きほぐすのに役立つ。
(集英社 1400円+税)