「テンプル騎士団」佐藤賢一著
テンプル騎士団とは、十字軍の時代、12世紀初頭に誕生した騎士の集まりである。と同時にキリスト教の修道会でもあった。もっぱら戦うことを目的とする騎士団が同時に清貧を重んじる修道会だったという事実は、それだけで謎めいているが、さらに大地主で国際金融を担う組織でもあったと聞けば、その謎はさらに深まっていく。
なにぶん中世のヨーロッパでのことなので、私たちには馴染みのない事柄ばかりだが、そのテンプル騎士団について面白く読ませてくれるのが本書である。
面白いのは当然である。作者は、「王妃の離婚」で直木賞も受賞したことがある。西洋を舞台にした歴史小説の第一人者である。
それだけではない。著者は大学院の博士課程まで修了しており、学問的な研鑚も積んでいる。したがって、巻末の参考文献を見てみれば分かるが、本書を書くにあたって数多くのフランスの研究書が参照されている。
なお、本書は小説ではなく、いわゆる教養新書である。ただし、第2部は、「テンプル騎士団とは何か」からはじまって、テンプル騎士団を主語にして、「始まる」「戦う」、「持つ」「貸す」「嫌われる」と章のタイトルがつけられており、展開はまるで小説のようだ。
テンプル騎士団は、十字軍が奪回した聖地エルサレムへ巡礼に向かうキリスト教徒を守護するために生まれ、それがやがて修道会の性格を持つようになっていった。
なにしろ彼らは神のために戦うのだから、一般の兵士たちに比べて士気が高く、格段に強い。彼らがイスラム教徒との間にくり広げた戦いのありさまは、日本の軍記物語の代表「太平記」を思わせる。
それが、安全確保を役割としていたことから、巡礼者や王室から金を預けられるようになり、フランス国王の金庫番にまでなっていく。そうなると、テンプル騎士団は、ヨーロッパの経済を動かす国際的な金融機関に成り上がる。現代のヘッジファンドだ。
それが祟って、最後には嫌われ、解散の憂き目にあう。それでも、テンプル騎士団の名前は残り、ときにその名を騙る集団が現れ、世の中を騒がせてきた。それだけこの集団は一時期、圧倒的な力を有していたのである。
(集英社 900円+税)