「VRは脳をどう変えるか?」ジェレミー・ベイレンソン著、倉田幸信訳
ゲームなどで使われ始めたVR(バーチャルリアリティー=仮想現実)。映像メディアの延長で、遊びをより面白くするものというイメージが強いが、ジェレミー・ベイレンソン著、倉田幸信訳「VRは脳をどう変えるか?」(文藝春秋 2200円+税)を読めば、それが単なるエンターテインメントでないことに驚かされる。
最新の研究では、VRは人間にとってメディア経験ではなく、強烈な経験そのものであり、脳も体もVRによって起こる出来事を本物と認識してしまうことが分かっているという。この特性を生かし、VRは医療の世界でも活用され始めている。
例えば、PTSDの治療だ。アメリカでは同時多発テロから10年が経過した2011年時点でも、PTSD患者は1万人以上と推定されていた。そこで、仮想空間にニューヨークの街を再現し、かつての姿を残したワールドトレードセンターの見える場所に患者を送り込む治療が行われた。
PTSDの治療には、トラウマ体験を正確に再現して直面させる「暴露療法」と、トラウマの受け止め方を修正する「認知行動療法」を同時に行うことが重要とされる。
ところが、多くの人はトラウマ体験を封じ込め、心に深い傷を与えた出来事を思い出せない。そこでVRを用いれば、忘れていた記憶も鮮明に蘇らせ、トラウマの根本を探ることが可能。今では、退役軍人のPTSD治療にもVRが用いられ、すでに2000人以上の治療に役立てられているという。
VRの活用が進む一方、長時間の使用で現実との区別がつかなくなり混乱を来すなどの報告もある。インパクトが強い分、危険性の研究も進むべきだろう。