「怠ける権利!」小谷敏著

公開日: 更新日:

「過労死」という言葉が生まれたのは30年以上も前。日本がバブルの繁栄を享受していた1980年代のことだ。しかし、今もなお日本では過労死が絶えない。小谷敏著「怠ける権利!」(高文研 2400円+税)では、国民が死に至るまで労働を強いられる異常な社会構造に異議を唱えている。

「働かざる者食うべからず」が“国是”ともいえる日本では、怠けることなどけしからんと考える人も多いだろう。しかし今、ヨーロッパ諸国を中心に労働時間の短縮が進んでおり、イギリスの年間労働時間は1674時間、フランスが1482時間、ドイツが1371時間となっている。

 対して日本では、1990年には2000時間もあった労働時間が、2015年には1719時間まで減少しているが、まだまだ主要国の中では長いと言わざるを得ない。しかも、この数字には「サービス残業」や「風呂敷残業」は含まれていない。

 働いた分だけ経済が豊かになるならまだ救いはあるが、実は成熟した社会では、過剰労働こそが不況を招くという。なぜなら、過剰労働は過剰生産を生み、商品価格が下落するため企業利益は減少。労働者の給与は引き下げられ、それを補うためにさらに長時間労働し……という悪夢のようなスパイラルが起きる恐れがあるのだ。

 一方、長期政権となっている安倍晋三政権では、「1億総活躍社会」をスローガンに掲げ、国民すべてを活躍、つまりますます労働させようとしている。これでは、不況からの脱出は難しい。本書では、無条件で最低限の所得が保障される「ベーシックインカム」の導入や、漫画家の水木しげる氏の生きざまから「怠ける」ことの意義も考察。今こそ“社畜”を脱する時だ。


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…