「文学はおいしい。」小山鉄郎著、ハルノ宵子画
吉行淳之介の「焰の中」に、昭和20年の米軍B29による大空襲前後のことが書かれている。焼け跡に座っていると、知り合いの娘が、小学校に貯蔵されていた鮭缶が空襲で焼けてしまったから拾いに行こうと誘った。友人とその鮭缶で雑炊を作って、数日間むさぼり食べたが、それはその年、最もぜいたくな食事だった。後に書いた「鮭ぞうすい製造法」には、17歳年下の妻と作った鮭雑炊は生臭くて食べられなかったとある。戦時中の鮭缶は地下室に詰め込んで焼夷弾をひと山落として蒸し焼きにしたから生臭さが消えたが、1杯1億円かかっている。鮭缶雑炊は吉行にとって戦争体験とつながる食べ物だった。(「鮭缶の雑炊」)
食と文学についてのエッセー100余点収録。
(作品社 1800円+税)