「料理長が多すぎる」レックス・スタウト著、平井イサク訳
ネロ・ウルフといえば、美食と蘭をこよなく愛する名探偵として知られる。なにせ、お抱えの料理人を雇い、屋上の栽培室には1万株もの蘭があるという凝りよう。美食家を体現するように、体重も140キロ超の巨漢。
本書はそのウルフのグルマンぶりを存分に示した料理ミステリーである。
【あらすじ】物語は、出無精で有名なウルフがニューヨークから列車に乗る場面から始まる。世界各地から選出された名料理長15人が、アメリカの保養地カノーワ・スパーに集まり晩餐会を開くことになり、ウルフはその主賓として招待されたのだ。
出発してしばらくすると、ウルフのコンパートメントに友人の料理長ヴュクシクがやって来た。サン・レモから来たヘローメ・ベリンを紹介したいという。このベリンこそ、ウルフが愛してやまない絶品のソーセージ料理、ソーシス・ミニュイの考案者であった。
ウルフは早速、その作り方を密かに教えてくれないかとベリンに懇願するが、頑として首を縦に振らない。その代わり聞かされたのが、ラスジオという料理人の悪口だった。ラスジオは何人もの料理人からレシピを盗んだだけでなく、ヴュクシクの妻まで寝取ったのだ。
そして、晩餐会の前日、余興として15人の料理長とウルフによるソースの味利きが行われたのだが、出題者のラスジオが刺殺されてしまう。犯人として疑われたのはベリンだった。状況からベリンの犯行はあり得ないと思ったウルフは、せっかくの休暇が台無しだと思いつつも捜査に乗り出していく……。
【読みどころ】幾多の名探偵の中でも極めて個性的なネロ・ウルフ。その傲岸さと美食を求めてのわがままなこだわりはいっそすがすがしくもある。探偵小説黄金期の名品を堪能されたい。 <石>
(早川書房 700円+税)