「はつ恋」村山由佳著
主人公は、もうすぐ50歳になる作家のハナ。2度の離婚を経験し、もう恋はしないだろうと思っていたはずが、幼馴染みだった5歳年下の大工・トキヲと恋仲になった。
南房総の家で猫と一緒に暮らしていたハナにとって、大阪に仕事の拠点があるトキヲとの恋愛は長距離恋愛にならざるを得ない。互いの老いた親のことも気にかけながら、仕事の終わり時間を見計らって毎日電話をかけ、やっと会えたときにはその時間を惜しむかのように求め合う、幸せと切なさを感じる日々。恋愛経験が多かったハナだが、それはもしかしたら初めてかもしれない、不思議な安心感に包まれた尊い日常だった……。
恋愛小説の名手である著者が、作家生活25周年の記念作品として描いた大人のための恋愛小説。若いときのように結婚や出産にしばられることもなく、ただ純粋に相手を思い合う様子をゆったりと描いていく。主人公は、若い頃の刹那的な生き方を変え、四季折々の自然を味わい尽くしながら、日々の暮らしの一瞬一瞬を大切に生きるなかで恋に出合った。
人生経験を経たからこそたどり着いた、ピュアな恋心が美しい。
(ポプラ社 1500円+税)