「ファミレス」(上・下) 重松清著
「ファミレス」という言葉が生まれたのは1970年。以後、外食産業の雄として発展してきたファミレスだが、以前に比べ利用率が減少し、客層も、本書の主人公が「ファミレス」は本当は「ファミリーレス」、家族なしの意味ではないかというように、家族からシングルの高齢者に変化している。本書は料理好きオヤジ3人が食べることを通して家族との絆を見つめ直すハートフルドラマ。
【あらすじ】宮本陽平は48歳の中学校の国語教師。先に家を出た長女に続き、長男が仙台の大学に入ったことで、妻の美代子と2人きりになった。
40歳を過ぎて料理の面白さに目覚めた陽平は、これからは夫婦水入らずで好きな料理でもと思っていたが、妻の本に署名入りの離婚届が挟んであるのを発見する。心ざわつく陽平だが、怖くて美代子に問いただせぬまま時間が過ぎる。
陽平の料理教室仲間の武内一博はトレンディーな月刊誌の編集長で、義母の介護のため京都へ里帰りしている妻とは4年半前から別居生活。武内の小学校の同級生の小川康文は総菜屋と弁当の移動屋台を営み、バツ1同士の妻と連れ子の息子と母親の4人暮らしだが、母も自分もどこか息子に遠慮があることを感じている。
それぞれに屈託を抱える3人だが、「人生とは、腹が減ることとメシを食うことのくり返し」をモットーに、互いに助け合いながらそれぞれの問題に向き合っていく――。
【読みどころ】陽平の長男が仙台に行ったのは東日本大震災後のボランティアも目的で、物語の背景にはその時代が色濃く影を落としている。今では色あせ気味の「絆」だが、食べるという生きることの基本を軸に、家族の絆を考えることの大切さを教えてくれる。映画「恋妻家宮本」の原作。
<石>
(KADOKAWA 各640円+税)