「聖者が街にやって来た」宇佐美まこと著
神奈川県多摩川市の中央に位置する湧新地区は企業誘致に成功し人口が急増、それに伴い犯罪も増えている。この街で花屋を営む小谷桜子。娘の菫子は17歳で、市が主催するミュージカルのオーディションに受かり、来るべき公演に向けて日々練習に励んでいた。そんな折、3人の若い女性が立て続けに襲われる殺人事件が発生。殺害方法は違うが、遺体のそばにはそれぞれに異なる花びらが置かれていた。桜子の高校時代の同級生で刑事の乗松は同一犯の仕業と見抜くが、それ以上の手がかりはなく捜査は暗礁に乗り上げていた。
街に不穏な空気が漂う中、今度は菫子がストリートギャングに拉致され、危ういところを助け出される。おまけに菫子の出演するミュージカルの音楽監督の与謝野が暴行を受け、意識不明の重体に陥り、ミュージカルの開催が危ぶまれる。花びらが置かれた2件の殺人事件も新たに起こり、事態は混沌を極めていく――。
柔道の強いオカマ、感情が欠落したマッドサイエンティストなど個性的な人物を配しながら、LGBT、危険ドラッグ、ネグレクトなど、日本社会の暗部を照らし出す長編ミステリー。
(幻冬舎 1700円+税)