「南極ではたらく」渡貫淳子著
2015年12月から1年4カ月間、第57次南極地域観測隊の調理隊員として昭和基地で活動した著者のエッセー集。日記をもとに書かれた個人的な記録であるとともに、白一色に囲まれた観測隊員たちの生活ぶりが描かれている。
隊員数は30人だが、メインである観測系の隊員は12人に過ぎず、設備のメンテナンスなどを担当する設営系のほうが多いという記述に、発電機の故障ひとつでも命に関わってくる特殊な環境が想像できる。携帯電話が使えないため、通信手段は無線機。多忙な通信隊員がとうとう無線室で暮らし始める描写など、いかにも南極ならではだ。
調理隊員は2人。朝はビュッフェスタイル、昼は麺類中心、夜はメイン料理に小鉢と味噌汁、ごはん。夜勤者のための夜食も作る。土木作業の手伝いや風力発電施設の建設作業、雪かき。野外観測に帯同し、雪上車や小屋で調理することもある。
さて、持ち込んだ食料は30トン、約2000品目。つぎの隊がくる1年後まで補給がなく、年間保存できる野菜は長芋とタマネギのみ。水には使用制限があり、生ゴミは焼却後、日本に持ち帰らなければならない。海を汚さないため生活排水を抑える必要もある。食事への不満を募らせることなく職務を果たしてもらうには、何を提供するのがベストなのか。
この条件下、大活躍するのがカレーとおにぎりなのである。カレーは他の料理で余ったスープなど再利用でき、最後はスープにすれば生ゴミがでない。おにぎりも夕食で残った米を再利用し夜食にする。天かすとあおさのりを使った通称“悪魔のおにぎり”は、帰国後SNSを通じて評判となり、本書を書くきっかけにもなったのだから、人生何が起きるかわからない。
「どうしても」と思ったらまずは挑戦だと、明るく背中を押してくれる一冊だ。(平凡社 1400円+税)