「追読人間臨終図巻Ⅰ」 山田風太郎原作 サメマチオ著
その人の経歴や財産の有無に関係なく、死は万人に平等に訪れる。1986年に刊行された山田風太郎の著書「人間臨終図巻」は、古今東西のあらゆるジャンルの著名人923人の死に際を記した奇書。それをコミック化した本書の第1巻には、あの有名な数学者ピタゴラスから、27歳で亡くなった女優の夏目雅子まで、120人分を収録する。原作は享年順だが、著者は紀元前から昭和まで、あえて出生順に並べる(あとがきに記された理由を読めば納得)。
誰もがその人の業績や人生をよく知っている人ばかりだが、さすがにその死に際についてはほとんど知られていないのではなかろうか。
例えば、巡遊先で死んだ秦の始皇帝(同49)の場合。都に戻って葬儀を行うよう命じられた側近は、その喪を伏せて、あたかも始皇帝が生きているかのように旅を続けたが、途中から死体が悪臭を放ち、それをごまかすために干魚を車に積んで、その臭いをごまかして咸陽に帰還したという。
胃がんと糖尿病と高血圧と腎炎で死の床に就いたエジソン(同84)は、妻のミーナに「苦しいですか」と問われ、「いや待っているだけだ」と意味深な言葉を残し、事切れた。
かと思えば文豪・夏目漱石(同49)は、いまわの際に胸を開けて「早くここへ水をぶっかけてくれ。死ぬと困るから」と何やらじたばた。
その他「痛くて痛くて、何か言ってないとたまらないんだ。ナンマイダ」と手術中に念仏を唱えたという映画監督の小津安二郎(同60)ら。
生前の名声や地位がどれほど輝かしくても、最期はその人の「素」があらわになるようだ。
死を迎えた偉人や著名人たちのこうした人間くさいエピソードが、自らの死に対する恐怖を和らげてくれる。
(徳間書店 1500円+税)