「昭和の品格 クラシックホテルの秘密」山口由美著
クラシックホテルとは、戦前に創業したホテルで、創業当時の経営指針を継承して、建設当時の建物を維持(改修・復元を含む)、現在も営業を続けているホテルのこと。
この条件を満たし「日本クラシックホテルの会」に加盟するのは、わずか9ホテル。本書はそのうち5軒を取り上げ、その魅力を紹介するビジュアルブック(残り4ホテルは著者の前著で紹介)。
まずは、日本屈指の景勝地や避暑地に誕生し、今もその歴史を積み重ねる正統派リゾートホテル「雲仙観光ホテル」(長崎県 1935年・昭和10年創業)、「蒲郡クラシックホテル」(愛知県 1934年創業)、「川奈ホテル」(静岡県 1936年創業)を取り上げる。
実はこれらのホテルが同時期に創業したのには訳がある。昭和5年に創設された国際観光局という機関によって、昭和15年開催予定で、結果としては幻に終わった東京五輪に向け、各地にホテルを整備すべく特別融資が行われ、14軒のホテルが開業。現在も往時のままのたたずまいを残して営業しているのがこの3ホテルなのだ。
創業者が船会社も経営しており、豪華客船を思わせる重厚なロビー空間が自慢の雲仙観光ホテル、日本で最初のゴルフコースを併設した川奈ホテル、そして城郭を思わせる帝冠様式の外観とは対照的に内観はアールデコ調の蒲郡クラシックホテル。それぞれの創業の物語をひもとき、各ホテルの魅力を紹介。
残り2軒は、東京駅丸の内駅舎内に1915(大正4)年に開業した「東京ステーションホテル」と、関東大震災からの復興のシンボルとして1927(昭和2)年に横浜に開業した「ホテルニューグランド」。
滞在すること、それ自体が旅の目的となるような極上な体験への招待状。
(新潮社 1550円+税)