「飲めば都」北村薫著
2017年、30年ぶりに行われた「日本人の飲酒動向調査」によれば、30年前に比して男性は飲酒率が減少したのに対し、女性は20%も増加している。理由として「普段の生活でのストレス頻度が変わった」という回答が多かったとのこと。主人公は、「人生の大切なことは、本とお酒に教わった」という信条のもと、雑誌編集者という多忙でストレスの多い日々をたくましく生きる呑兵衛女子だ。
【あらすじ】小酒井都は文芸誌の新人編集者。髪短く、鼻筋通り、すっきりした顔立ちで、自分という車のハンドルをきちんと握っている人物である。ただし、酒を飲まなければ。都の酒癖の悪さは有名で、歓迎会で退職間近のうるさ型編集者の腕をわしづかみにしたり、編集長の白いワイシャツに赤ワインをぶちまけたりとエピソードには事欠かない。そんな都を鷹揚に見守ってくれたはずだった恋人が別の人と結婚することになり、ひどく落ち込む。そこへ現れたのがイラストレーターの小此木。個性的なネコの絵は新連載の挿絵にぴったりだ。何度か打ち合わせを重ねるうちに互いを意識するようになる。ところがある晩、またぞろ酔い潰れた都は小此木を部屋まで連れてきたところまで覚えているが、その先の記憶がない。朝目覚めると奮発して買った高級下着がない。慌てて小此木に電話すると、いいものを貸してもらったという返事。パニックに陥る都……。
【読みどころ】そんなときに助けてくれるのが、博識で絶妙なホラでけむに巻く美喜、年下の同僚への恋心を必死に抑え込むまりえ、酔っぱらって銀座の街を裸足で駆ける早苗といった個性的な同僚女性の面々。酒で大失敗もするが、それ以上にいい本をつくろうと邁進する都たちの姿が実にすがすがしい。 <石>
(新潮社 710円+税)