「対談美酒について」吉行淳之介、開高健著
今年は開高健没後30年、吉行淳之介没後25年。開高は「美味求真にして鯨飲馬食」の作家。「ロマネ・コンティ・一九三五年」というワイン小説の名品もある。吉行は「酔っぱらい読本」を編んだり、エイミスのエッセー集「酒について」の翻訳も手がけている。この2人が酒について語ったのが本書。対談が行われたのは1981年。開高は前年4月まで南北アメリカ大陸縦断旅行を行い、その話題も出てくる。吉行は78年に出た「夕暮まで」が評判となり、「夕暮れ族」という流行語が生まれた。当時吉行57歳、開高はその6つ下。
【あらすじ】博覧強記の開高が世界各地の酒に関する話をとうとうと語り、それに対して吉行が相づちを打ちつつ巧みに自分の領分に話を引き寄せていくという、互いの話芸を駆使していくさまは、まさに名人芸を見るがごとし。酒がテーマなのだが、この2人のこと、酒を語りながらもおのずと女の話へと移行する。
「ブドウ酒の話をはじめると、どうしても女にたとえるという楽しみがあります」と開高が口火を切り、そこから現在の「年増」は何歳ぐらいを指すのかという話になだれ込み、互いのセックスライフへと踏み込んでいく。
かと思えば、「酒飲みはかくあるべし」という話題から、互いの若い頃の酒の失敗談、信州人の酔い方の特徴、ジャン・ギャバンの酒の飲み方の格好良さ、形而上的二日酔いの考察、さらには文明が進歩するにつれ透明な蒸留酒が好まれていくという開高理論に至るまで、森羅万象に話が及ぶ。
【読みどころ】卓見、名説、迷説、箴言、高説、警句がたっぷりと仕込まれている本書をつまみに、好きな酒をちびりちびりとやれば、極上の時間を過ごせるにちがいない。 <石>
(新潮社490円+税)