共感疲労で殉職した英国女性記者の実話

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 ジャーナリズムの世界に「共感疲労」という言葉がある。紛争や災害の現場報道で心を痛めるあまり、犠牲者や被害者のトラウマを自分も引き受けて燃え尽きてしまうことだ。救命士なども同じ立場だが、欧米では特に報道人がこれにやられる話をよく聞く。

 今週末封切りの映画「プライベート・ウォー」はこの共感疲労で燃え尽きて殉職した女性記者の実話。

 英「サンデー・タイムズ」で80年代から戦争報道に携わったメリー(マリー)・コルヴィン。日本では知られていないが、どんな戦禍でも女子どもが巻き込まれていると聞けば身を捨てて飛び込む義侠の特派員として英語圏では勇名を馳せた。スリランカ取材で負傷し、左目に海賊のような黒いアイパッチをした姿に見覚えのある人もいるだろう。

 主演のロザムンド・パイクは元ボンドガールだから、男っぽい外見の実物とはまったく違うのだが、孤独と共感疲労で自滅してゆく「伝説の女」の悲劇を体現してみせた。

 実は共感疲労が報道人に与える影響について欧米では入門書も多数あるのに、日本では看護師など医療従事者向けに偏る傾向がある。なぜだろう。紛争取材に出るジャーナリストを「自己責任」と突き放す昨今の社会風潮を思うにつけ、気になるところだ。

 逆に、最近の若手のトラウマ論として目を引くのが中村江里著「戦争とトラウマ 不可視化された日本兵の戦争神経症」(吉川弘文館 4600円+税)。

 旧日本軍でPTSDだったと思われる兵士たちを診た陸軍病院の記録をていねいに調べ、当時の精神科医療と社会的な制度の双方が「心の傷」を覆い隠していた様相を浮き彫りにした異色の日本史研究。なお、著者と指導教官だった吉田裕氏の対談が日本の戦争文化について面白い視点を提供している。「KUNILABO、戦争、記憶」で検索していただきたい。

 <生井英考>

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