「教養としてのミイラ図鑑」ミイラ学プロジェクト編著
ミイラと聞くと、多くの人はエジプトのそれを思い浮かべることだろう。しかし、ミイラは世界の至る場所に存在する。エジプトのように、技術を駆使して作った人工ミイラだけでなく、砂漠乾燥地帯や標高の高い山、永久凍土、泥炭湿地に埋葬された遺体が、偶然、ミイラとなったものもある。
本書は、世界各地のミイラを紹介しながら、その土地の埋葬文化や死生観を解説する異色図鑑。
3000年もミイラを作り続けた古代エジプト人たちの死生観のもととなったオシリス神話をはじめ、当時のミイラ作りの実際を紹介。驚くのは、エジプトでは19世紀、道端にミイラを並べて観光客に売り、中世ヨーロッパではそうしたミイラを薬として服用したり、たき火の燃料や絵の具の材料などにしたという。
意外にも世界最古のミイラが発見されたのは南米だった。世界におけるミイラ文化の発祥の中心地は現在のペルーからチリ、アルゼンチンにかけて広がるアンデス地域。この地域に文明を築いたインカ帝国のミイラ文化は、ミイラを死者ではなく生きている人と同じに扱う。大切な人の肉体をミイラとして残し、今まで同様に家族の一員として日々会話する暮らしを続けるのだそうだ。
パプアニューギニアでは、先祖崇拝の一環として薫製ミイラを作る。彼らは死者が外敵から守ってくれると信じており、完成したミイラを崖の上に置いて、村に侵入するものを監視させる。
他にも、8000体ものミイラが亡くなった当時の盛装のまま納められているイタリア・シチリア島のカタコンベ(地下納骨堂)や、日本のミイラ「即身仏」まで。224枚の豊富な写真を収録。ミイラを通じて、人類がどのように死と向き合ってきたかが分かる。
(KKベストセラーズ 2500円+税)