「ひとりが要介護になるとき。」山口道宏氏
下流老人、老老介護、行き場のない寝たきり老人、孤独死……老後の暗いニュースが駆け巡る昨今、不安に思わない人はいないだろう。特に貯蓄も年金も少ない独居老人ならなおさらだ。
本書は、介護福祉士やジャーナリストによる独居老人の介護問題に追ったノンフィクションだ。
人生50年であった昭和20年代は、サザエさんのような3世代同居が多くを占めていたが、人生100年の今、核家族化は進み、約5000万世帯の半分強が単身または2人世帯となった。著者は長年、介護問題に取り組んできた。
「戦後70年で日本人の寿命と家族構成は激変しました。昔は働けなくなった頃にぽっくり亡くなる人が多かったのですが、今は寿命が延びたぶん、誰かの手を借りずには生きられない年月を過ごすことに。日本人が長い歴史の中で初めて直面したのが介護問題なのです」
家族の負担を減らすため、国は「介護はプロに」と2000年に介護保険制度をスタートさせた。
「制度が始まって約20年たち、保険料は値上げされるのに内容は改善されるどころか、18年の介護保険制度の改悪でヘルパーさんの滞在時間は短縮され、十分な世話ができない。現場からは悲鳴が上がっているのです」
要介護の高齢者をお金がかかる施設や病院で面倒を見るのではなく、国はたくみに「在宅」へと誘導する。ところが満足な訪問介護は行われないため、独居老人や老夫婦だけの世帯では破綻は目に見えている。現在、単身世帯は34・6%で、うち約4分の1は65歳以上だ。
「制度は家族世帯を一単位としてつくられましたが、単身者がこれだけ増えた今、全く時代に合っていないのです。生涯独身者だけではなく、連れ合いが亡くなったり、子供が遠くで暮らしているケースは多い。元気なうちはいいのですが、自分で食事が作れないほど弱ったときでも、現在の制度では、満足に家に来てもらえないのです」
お金があれば有料老人ホームも考えられるが、公的なホームは順番待ち。その隙間を埋めるように、無届けの高齢者住宅も増えているが、設備の欠陥などによる火災事故も起きている。積極的であれ消極的であれ、在宅で介護を受けるケースは今後、増えていく可能性は高そうだ。
「誰もが幸せな老いを迎えられるように考えることは、法治国家として最優先してやるべきことなのに」と著者は憤慨するが、何か打つ手はないのだろうか。
「自分が動けるうちに中学校区にひとつある地域包括支援センターや行政の窓口、介護経験者などに、どんなサービスがあるのか聞いてみることです。孤立しないこと、情報弱者にならないことが何よりも大切ですね」
本書では、一人暮らしで在宅介護を受ける人々のさまざまな実例も紹介。
独居で在宅介護を受けることへの不安は尽きないが、居住地域によっては、訪問ボランティアや紙オムツの配達や配食サービスなどもある。ヘルパーが週に数回しか来なくても、これからのサービスをうまく組み合わせることで、毎日、誰かが家に来て様子を見てもらうことが可能だ。
また、お金がなく病院や介護保険を使うことに躊躇する高齢者もいるが、全額ではなく、足りない部分だけ生活保護を申請できることは、あまり知られていない。
「多くの日本人は人に迷惑をかけてはいけないと思い込んでいますが、これからの時代、自分で助けて! と言える発信力は必要。老後の不安を解消できるヒントが本には詰まっています」
(現代書館 1700円+税)
▽やまぐち・みちひろ ジャーナリスト。星槎大学共生科学部教授。法政大学大原社会問題研究所嘱託研究員。主な著書に「老夫婦が独りになる時」「無縁介護」「介護漂流」「男性ヘルパーという仕事」「東京で老いる」など。