「こども六法」山崎聡一郎氏

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 動物やキャラクターのイラストを使い、やさしい言葉で子ども向けに法律を解説した本書。発売から2カ月で異例の15万部を突破し、一時は書店で品薄状態が続いたという話題の書である。

「小学生のときに、いじめに遭っていたんです。暴言、暴力があったのですが、先生に訴えてもスルーされるし、自分ではどうすることもできませんでした。それが中学生になり図書館で六法全書を読んで、僕が受けていたいじめは犯罪にあたるんだ、と知った。当時の自分がもし法律を知っていたら自分で自分の身を守れたのに、と悔しい思いをしたんですね。そんな僕の原体験から、子ども向けの六法全書が生まれました」

 もともとは、大学時代に研究助成金を獲得し作った100ページほどの冊子だった。書籍化するにあたり、クラウドファンディングで資金を募ったところ170万円が集まったという。

 刑法、刑事訴訟法、少年法、民法、民事訴訟法、
商法の六法のうち、子どもに関わりのない商法を外し、代わりに日本国憲法と、いじめ防止対策推進法を加えた7章立て。「貸したマンガを返してもらう権利」「危険をまねくいたずらは重い犯罪になるよ」など、各章ごとに子どもたちの日常トラブルに関係のあるもの、知っておいてほしい条文を取り上げ、要約を添え解説する。

「法律の知識はもちろんですが、法的な物の考え方を身に付けることはすごく大切だと思いますね。何が犯罪かを知っていることは、自分の身を守ることにつながるからです。たとえば、『悪いことをした人を、みんなでいじめる』はよくあるパターンですが、いじめられている方に原因があっても何をしてもよいというのではない、というのが法律の考え方。憲法第31条の『法定の手続の保障』で、人は法律の手続きによらないと、その他の刑罰を科せられたりしないと保障してます。この条文を知っていれば、自分が遭っていることは犯罪だと判断できますよね」

 刑法では全264条中約120条を引き出し、「気軽に死ねって言ってない?」「その一言が罪になる!」「けがをさせなくても暴行になるよ」など子ども目線のキャッチと共に紹介しているが、数ある刑法の中でも、特に覚えておいてほしい条文として著者は「親告罪」を挙げる。

「いじめは犯罪に相当するものが多くありますが、名誉毀損や侮辱罪といった犯罪は『親告罪』と言って、被害者から告訴がないと裁判が起こせないんです。つまり、いじめられた方が申告しないと認められないということ。六法全書を読み、事実を知ったとき、後悔をしましたね。知らなかった自分が悪い、知らなかったから救われなかったんだ、と思ったんです」

 ほかにも「子どもは生きるための世話をしてもらう権利がある」(刑法第218条 保護責任者遺棄等)、「みんな幸せになる権利がある」(憲法第13条 幸福追求権)など、子どもが生きていくうえで必要不可欠な法律がズラリと並ぶ。

「法律を通して見えてくることは、自分からアクションを起こさないといけない、ということです。いい悪いではなく、これが日本社会の仕組みなんですね。だからこそ、法律を知って子どもたちのSOSの根拠にしてほしい。本書が子どもの逃げ道を増やし、大人の逃げ道を減らす助けになればうれしいですね」

 巻末には壊されたものの保管や日記をつけるなど具体的な方法を紹介すると共に、法務省などの相談窓口も掲載。親子でぜひ読みたい一冊だ。

 (弘文堂 1200円+税)

▽やまさき・そういちろう 1993年、埼玉県生まれ。教育研究者、写真家、俳優。慶応義塾大学総合政策学部卒業、一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。修士(社会学)。法と教育学正会員、日本学生法教育連合会正会員、板橋区演奏家協会会員。

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