「熊本城写真集」馬場道浩著

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 2016年4月の熊本地震によって損傷した熊本のシンボル「熊本城」。県民たちの心のよりどころでもあるこの城の復旧には、およそ20年かかるとされている。それでも今秋には大天守の外観修復を終え、特別公開にまでこぎつけた。

 本書は、被災直後から大天守の復旧まで、3年半に及ぶ熊本城の日々を記録した写真集ではあるが、単なる記録集ではない。「Dear K.J.敬意と愛を込めて、あなたをこう呼びます」という一文から始まることでもわかるように、激しく傷んだ熊本城に心を痛め、その復興の過程に寄り添い、見守り、期待し、そしてその姿に勇気を受け取る――熊本城へのラブレターにもなっている。

 冒頭の数葉は、在りし日の熊本城の雄姿を伝える。満開の桜と観光客でにぎわう大天守のツーショット、市民を見守るようにそびえたつ城を市街から見上げた夜景、宇土櫓など国の重要文化財となっている現存遺構を含む城内全体の俯瞰、そして大天守の威容を正面から捉えた一枚などが並ぶ。

「あたり前のようにそこにあった日々」がずっと続くと誰もが思っていたが、「その日」は前触れもなく、突然にやってきた。

 続くページをめくると、前ページでは威容を誇っていた大天守の変わり果てた姿が目に飛び込んでくる。しゃちほこは落ち、瓦が粉々になった姿は、目をそむけたくなるように痛々しい。さらに各所で雪崩のように流れ出した石垣、辛うじて残った一本石垣だけで奇跡的に倒壊を免れた「飯田丸五階櫓」など、改めてその地震のすさまじさを実感する。

 難攻不落で「武者返し」と呼ばれ、数々の歴史が刻まれた石垣も、見るも無残に崩れてしまった。

 やがて大天守の崩れた瓦屋根や石垣の隙間からは、雑草が生え始め、荒廃はさらに進んでいく。

 しかし、著者はそんな姿にも「無精髭姿のあなたが、微笑んでいるように見えました」と希望を見いだす。400年を超える歴史の中で何度も災害に遭い、そのたびに立ち直ってきた城の復興がいよいよ始まったからだ。

 城の風景にはふさわしくないクレーンがそびえ、大小の天守や宇土櫓は足場で覆われる。一本石垣によって辛うじて立っていた「飯田丸五階櫓」も大型ジャッキによって養生され、ひとときの安寧を得る。

 崩れた石垣の石は、ひとつひとつに番号が振られ、整然と並べられ、割れずに残った瓦も収納され、再び屋根にふかれる日を待つ。

 城内にそびえる樹齢800年のクスノキや、城を創建した加藤清正の銅像らに見守られ、少しずつ姿を取り戻していく城の様子を活写。

 大天守の外観修復を終えたが、修復作業にはまだまだ途方もない時間と資金が必要となる。それを支えるのが延べ10万人にも上る「復興城主」たちの存在だ。

 城を愛する全ての人々の思いが凝縮された写真集だ。

(玄光社 3500円+税)

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