「ニクソンのアメリカ」松尾文夫著
トランプ本は世に数あれど中身はどうも腰折れぎみ。報道界もどうやら「トランプ疲れ」らしい。本書は50年も前のニクソン政権について同政権の最末期に書かれた本の増補改訂版。なんだ、古い本かというのは早計。著者は共同通信の著名なベテラン特派員。定年後も現役ジャーナリストとして鋭い指摘や論点を披歴してきた。本書も旧著の構成を大幅に修正し、あらたに付章「トランプとニクソン」を加えたリニューアル版だ。
自己顕示の塊のようなトランプに対して、ニクソンは劣等感の権化。しかし、両者は国家元首としての不安定性、社会の亀裂を利用した政局運営、頭越し外交など「ショック」を好むことの3つで大いに共通するという。周囲を信頼せず、メディアを敵に回し、疑心暗鬼にさいなまれたニクソンと、閣僚を信頼せず、次々に更迭しながら、「フェイクニュース!」と決めつけるトランプは確かによく似ているのだ。
著者は19年2月、出張先のニューヨークで客死した。先達の鋭い目に学ぶのは今だ。
(岩波書店 1620円+税)