「息吹」テッド・チャン著 大森望訳

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「ベストSF2004」の第1位を獲得するなど世界中のSFファンに衝撃を与えた「あなたの人生の物語」から17年ぶりとなる待望の第2作品集。デビュー以来29年間で本書収録の作品を含めて全18編の中短編しか発表していないという驚くべき寡作ぶり。それだけに期待は高まるが、ここに収められた9編はその期待にたがわぬ傑作揃いだ。

 巻頭の「商人と錬金術師の門」は、「アラビアン・ナイト」の世界を借りたタイムトラベルもので、過去を変えられないタイムマシンという設定のもと、語り手が変えられないとわかりつつも自らの過去に向き合うという味わい深い作品。続く表題作は、日常的に空気を満たした2つの肺を交換するという世界において、宇宙創成の秘密を探ろうとして自らを実験台とする科学者の話。

 本書最長の中編「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」はAIの成長物語で、AIと人間との根本的な問題を問いかけている。

 その他、自由意思、量子力学の多世界などの多彩なテーマに、めくるめく世界が開かれていく。

 (早川書房 1900円+税)

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