「地面師たち」新庄耕著
地面師とは、他人の所有する土地を利用して金を騙し取る詐欺師のこと。大手住宅メーカーが巨額な被害に遭って世間を驚かせた事件は記憶に新しい。地面師たちの周到な手口を徹底的に取材し、リアルに描いたクライムノベル。
デリヘルドライバーをしていた辻本拓海は、大物地面師・ハリソン山中に声をかけられた。拓海には壮絶な過去がある。実家の火災で母と妻と幼い娘を一度に失った。放火犯は、詐欺に遭って全てをなくし、無理心中を図った実の父親だった。ハリソンの誘いで拓海は闇の世界に身を置き、進んで罪を重ねていった。一方、定年間近の刑事、辰は因縁の相手ハリソンを捕まえることに執念を燃やし、老練の勘で手がかりを掴みかけていた。
そうとは知らないハリソンは、大勝負に出る。うまくいけば儲けは100億円。ハリソンと拓海、土地情報収集役でシャブ中毒の竹下、土地所有者の「なりすまし役」を探して教育する麗子、司法書士くずれの後藤。この5人が結束し、周到な計画を実行に移す。騙す側、騙される側の心理はどちらも極限状態。息詰まる展開は詳細を極め、現実の事件を彷彿させる。
そして、いっぱしの地面師になった拓海と老刑事が交差したとき、過去に深い根を持つ衝撃の事実が明らかになる。
詐欺に手を染める人間の心情に肉薄し、時代の暗部をえぐった傑作長編。
(集英社 1600円+税)