「甘夏とオリオン」増山実著
寄席小屋、南條亭に向かう途中、弟子の甘夏に「今日は神農さんの祭りの日や」と言って電車を降りたまま、落語家の桂夏之助は姿を消した。いつまで経ってもその行方は知れない。
甘夏が入門するきっかけになったのは、大学3年のとき、引っ越しの手伝いで、バイト料の他にご祝儀3000円をもらったことだった。落語に興味はなかったが、南條亭の前を通りかかったら入場料が3000円だったので、切符を買って木戸をくぐった。そこには子どもの頃、憧れていた「突き抜けたアホたち」がいたのだ。その日、「宿替え」を演じたのが夏之助だった。
師匠に取り残された一門を守るため、居候している銭湯で寄席を開いた落語家の物語。
(KADOKAWA 1600円+税)