「いいからしばらく黙ってろ!」竹宮ゆゆこ著
最初に書いておくが、たいした話ではない。バーバリアン・スキルという弱小の劇団に飛び込んで、その運営に携わるヒロイン(彼女は大道具の才能まであるから重宝される)の疾風怒涛の活躍を描く長編だが、どうやったら公演までたどりつけるか、というだけの物語であるから、たいした話ではない。たとえ資金が集められずに公演できなかったとしても、世界がひっくり返るわけではないのだ。ところが読み始めるとやめられなくなる。
なんなんだこれは!
略歴をみると、著者はライトノベルで活躍していた人で、5~6年前から新潮文庫nexなどで新作を発表しているようだが、本書のクセになる文体がライトノベル時代から変わらないこの著者の特徴なのか、それとも大人向けの一般文芸に転じてからの特徴なのかが判断できない。たいした話でもないのにやめられないのは、文体だけでなく、物語に漲る熱気がただごとではないからだ。それがなによりも素晴らしい。粗削りだが、迫力満点の、元気が出てくる異色の青春小説だ。
冒頭に出てくる挿話についても少しだけ書いておく。幼いヒロインが、言うことを聞かない双子の弟妹と、わがままな双子の兄姉に挟まれて苦労する挿話で、このあたりのリズムがややぎくしゃくしているので読みにくいことは否めないが、なんだかこの挿話の向こうにこの著者の才能がひそんでいるような気がしてならない。要注目だ。
(KADOKAWA 1700円+税)