阿部治(立教大学教授)
2月×日 台湾に出張予定であったが、コロナウィルスの影響でやむなく中止した。
この機会に「脱プラスチックへの挑戦 持続可能な地球と世界ビジネスの潮流」(堅達京子+NHKBS1スペシャル取材班著 山と溪谷社 1500円+税)を読む。本書は、2019年にNHKで放送されたBS1スペシャルの取材とその後の最新動向を基にプラスチックをめぐる世界の状況を分かりやすく解説した本だ。
この放送を私も視聴したがNHKならではの取材力と映像は迫力があり、説得力があった。実は本年1月に勤務校で海洋プラスチック問題のシンポジウムを主催したが、高校生からシニアにいたるまで会場いっぱいの参加があった。海洋プラスチックは、温暖化問題と同様に世界で最もホットな問題である。「あなたは毎週5グラムのプラスチックを食べている」との帯は刺激的だ。
2月×日 世界自然遺産登録を目指す沖縄県本島最北端の国頭村で行われたシンポジウムにゲスト参加。これは世界遺産に指定されても観光開発という時流に流されることなく先人の知恵を学び、自然や文化を守り、誇りをもって暮らしていくことをめざす活動である。
「自然保護と開発」は中々厄介な問題だ。誰しも自然を大切にすることを否定しないが、実際には豊かさや便利さ、快適さを優先してしまう。
首都圏の松戸市にある「関さんの森」は樹齢2百年のケンポナシの大木もある2ヘクタールにおよぶ里山だ。鬱蒼とした屋敷林や子どもの遊び場を備えた緑地として、市民に公開され親しまれてきた。しかしここを貫く市道が1964年に計画され、2008年には土地収用法の適用によって壊されることになった。森を守る市民たちは迂回道路を提案し、市民と行政との長い闘い(と協働)が始まる。決着は2019年。この間の動きを当事者として記録した関啓子著「『関さんの森』の奇跡」(新評論 2400円+税)は、このままではなくなってしまう都市内緑地をいかに守ったかを記録したノンフィクションだ。
行政主導の開発に市民が待ったをかけた貴重な記録であり、勇気を与える著作である。